ある犬の夢
犬はテーブルの上のチーズのにおいに気づいた。目に見えるような気すらした。おすわりをしてみた。ふせをした。遠吠えもした。でもチーズは犬の口には入らなかった。
その夜、犬は夢を見た。
犬の背中には、羽が生えていた。ちいさな、ビロビロとした、コウモリのような羽だった。犬はうれしくなってキッチンに走った。深呼吸をすると、ばたばたとはばたいてみた。すこし体が浮かんだので、ありったけの力を羽に込めてばたばたとした。テーブルの上がもうすこしで見えそうなほど体が浮かんだが、チーズには届かなかった。犬は夢中で空を蹴り、宙を掻いた。ちいさなコウモリの羽は犬の体がテーブルの上にとどくほどの力がなかった。犬はまた、チーズを食べる事ができないまま寝床に戻った。
朝、犬が目を覚ますと羽はなくなっていた。そのかわり、犬の皿のなかには大きなチーズのかけらがありましたとさ。